「サービスにつながる前」を、誰が支えるのか①――ケアマネさんの「シャドーワーク」から考えた
昨日、ケアマネジャーさんから「シャドーワーク」という言葉を聞きました。
家族は介護サービスを利用してほしい。でも、認知症のある本人は「必要ない」と思っている。
その間に入り、何度も訪問し、話を聞き、関係をつくる。しかし、サービス利用につながらなければ、その仕事が十分に報酬へ結びつかないことがあるそうです。
では、「サービスにつながる前」を誰が支えるのでしょうか。
昨日聞いた話から、今日はそんなことを考えました。
ケアマネジャーさんから聞いた「シャドーワーク」
例えば、認知症のある方が要介護認定を受けたとします。
家族は、
「デイサービスを利用してほしい」
「少し外に出る機会をつくってほしい」
と考えている。
そして、ケアマネジャーにつながります。
ところが、本人は、
「私はそんなところには行かない」
「何も困っていない」
「そんなサービスは必要ない」
と考えている。
認知症のある方への支援では、こうした場面は決して珍しくないと思います。
ケアマネジャーが一度訪問して説明したからといって、本人がすぐに「利用します」となるとは限りません。
もう一度訪問する。
本人の話を聞く。
家族から相談を受ける。
本人がなぜ嫌なのかを考える。
こうした関わりが数か月続くこともあるそうです。
そして最終的に、本人が介護サービスを利用しないということもあります。
すると、それまで訪問したり、相談に乗ったりしてきた仕事が、十分に報酬へ結びつかない場合があります。
こうした「サービス利用の意向がない方への訪問」や「契約前の訪問」も、ケアマネジャーを対象とした調査では、シャドーワークとして挙げられています。
シャドーワークには、ほかにもさまざまなものがあります。
ただ、今回私が考えたいのは、シャドーワーク全般ではありません。
本人がまだサービスを望んでいない時期に、誰がその人とつながり続けるのか。
ということです。
「待つ時間」も支援ではないだろうか
家族はサービスを利用してほしい。
専門職から見ても、何らかの支援があった方がよいと思う。
しかし、本人は望んでいない。
本人の意思を無視して、
「認知症なのだから、デイサービスに行った方がいい」
「家族が困っているから利用しましょう」
とサービス利用だけを進めることが、必ずしもよい支援とは限りません。
そもそも、介護サービスは「認知症だから使う」というものではないと思います。
認知症の予防には、発症リスクを下げる一次予防、早期発見・早期対応を目指す二次予防、そして発症後の進行予防や生活機能の維持などを考える三次予防があります。
すでに認知症のある方であれば、外に出る、人とつながる、できることを続ける、生活のリズムを整えるといったことも大切になります。
デイサービスなどの介護サービスは、そのための一つの選択肢です。
「認知症だからサービスを使う」のではなく、「その人の生活を支えるために、必要であればサービスを使う」。
そう考えると、まず本人がどんな生活を続けたいのかを知る必要があります。
何が嫌なのか。
何を大切にしているのか。
何なら受け入れられるのか。
それを知るためには、時間が必要です。
私は、この「待つ時間」も支援なのではないかと思いました。
しかし、本人の納得を大切にするほど、支援者には時間が必要になります。
その時間を、ケアマネジャー個人の善意や持ち出しだけに頼ってよいのでしょうか。
「つながること」を仕事にしている仕組み
そこで思い出したのが、スコットランドの「リンクワーカー」です。
スコットランドでは、認知症と診断された後、本人や家族に関わり、これからの生活や地域とのつながり、将来について一緒に考える診断後支援があります。
ここで私が興味を持ったのは、何かの介護サービスを利用させることだけを目的にしているのではないという点です。
本人とつながりながら、これからどう暮らしていくのかを一緒に考えていく。
そんな役割があることを知りました。
もちろん、リンクワーカーと日本のケアマネジャーは別のものです。
では、日本で「つながるまで」を支える方法はないのでしょうか。
そこで思い浮かんだのが、「認知症伴走型支援事業」です。
この事業は全国一律に行われているわけではなく、実施している地域と、そうでない地域があります。
認知症のある本人や家族と継続的につながり、相談支援を行っていく仕組みです。
ここで、昨日聞いたケアマネジャーさんの話とつながりました。
「サービスにつながる前」を伴走してもらえないだろうか
要介護認定は出ている。
家族は介護サービスを希望している。
でも、本人はまだ利用したくない。
そんなとき、ケアマネジャーだけが何度も訪問してサービス利用を調整し続けるのではなく、伴走型支援事業を担う人が、その期間を一緒に歩くことはできないだろうか。
すぐにデイサービスを勧めなくてもいい。
本人の話を聞く。
好きなことや大切にしていることを知る。
どのように暮らしていきたいのかを一緒に考える。
家族の話にも耳を傾ける。
そして、ときどき会いながら関係をつないでおく。
その関わり方に、スコットランドのリンクワーカーの考え方を参考にしてみる。
本人が、
「少し使ってみようかな」
と思ったときに、改めてケアマネジャーや地域包括支援センター、医療機関、介護サービスなどにつなぐ。
そんな役割分担はできないだろうか、と考えました。
もちろん、現在の認知症伴走型支援事業が、ケアマネジャーのシャドーワークを代わりに担う制度だということではありません。
リンクワーカーと認知症伴走型支援事業からヒントをもらって、私なりに考えた一つの案です。
「サービスにつながらなかった」で終わらせない
もし、このような仕組みができれば、本人は望んでいないサービスを急いで利用する必要がありません。
家族には、本人がサービスを拒否している間にも相談できる人がいる。
ケアマネジャーは、サービス利用前の長期間の関係づくりを一人で抱え込まなくてよい。
そして伴走する側には、「本人とつながり続ける」という仕事そのものに役割と財源がある。
もちろん、誰を対象にするのか、どの段階でつなぐのか、既存の支援者とどう役割を分けるのかなど、考えなければならないことはたくさんあります。
それでも、
という視点は必要なのではないでしょうか。
何度会っても、介護サービスにはつながらなかった。
でも、本人との関係はつながった。
半年後、その人が困ったとき、
「あの人に相談してみようかな」
と思ってくれるかもしれません。
サービスにつながらなかった時間を、「何もしていない時間」にしない。
そして、その時間を誰かの無償の仕事にもしない。
昨日、ケアマネジャーさんから「シャドーワーク」という言葉を聞いて、私は初めてこうした現実を知りました。
知らなかったことを一つ教えてもらったことで、
「大変なんだな」
で終わるのではなく、
「では、その仕事を地域の仕組みとして支える方法はないだろうか」
と考えるきっかけになりました。
スコットランドのリンクワーカーと、日本の認知症伴走型支援事業。
まだ私は知らないこともたくさんあります。
だから、もう少し調べてみたいと思います。
続く第2回では、こうした「つながる前の支援」を制度として支える可能性について、認知症伴走型支援事業から考えました。
