嫉妬妄想だけを見ない④――「相談するだけでも、お金がかかる?」早めの相談が守るもの
この家族と本人への支援がひと区切りついたとき、ご家族から最後にこう聞かれました。
「ここまで相談に乗ってもらって、訪問までしてもらって、お金はいくらくらいかかるんですか?」
その言葉を聞いて、私は少し驚きました。
今回の相談や訪問に、ご家族の費用負担はありませんでした。
そして、この一言から、ひとつ気づいたことがあります。
もしかすると、認知症について相談したり、訪問してもらったりすることにも、お金がかかると思っている人がいるのではないか。
もしそうであれば、それだけで相談をためらう理由になってしまいます。
この事例を最初から読む方は、第1回の「夫婦間の格差」という視点からご覧ください。
前回は、できないことが増えても、できることまで奪わないという視点について考えました。
「まだ相談するほどではない」と思っている時期こそ
認知症について困ったとき、最初から病院を受診したり、介護サービスを利用したりする必要があるとは限りません。
「最近、少し様子が違う」
「家族だけでは、どうしたらいいのかわからない」
そんな段階から相談できる窓口があります。
地域包括支援センターや認知症疾患医療センターなど、無料で相談できる窓口があります。
まずは話をしてみる。
それだけでも、次に何をすればよいのかが見えてくることがあります。
無料で相談や訪問を行う「認知症初期集中支援チーム」
地域には、認知症初期集中支援チームという仕組みもあります。
認知症初期集中支援チームは、認知症が疑われる人や認知症の人、その家族から相談を受け、必要に応じて本人や家族のもとを訪問します。
そして、
必要な医療や介護などのサービスにつなげていく役割も担っています。
相談や訪問について、本人や家族に費用負担を求めるものではありません。
相談やチームによる訪問は無料ですが、その後の医療機関の受診や介護サービスの利用には、自己負担が生じる場合があります。
認知症が疑われても本人が受診したがらない、介護サービスにもつながっていない、家族だけでは対応が難しくなっている。
そうしたときに、本人や家族だけで抱え込まずに相談できる仕組みです。
早めに相談することは、必要な支援につながること
認知症の症状が出ていても、
「もう少し様子を見よう」
「本人が嫌がっているから」
「家族の中で何とかしよう」
と、相談までに時間がかかることがあります。
今回の嫉妬妄想についても、本人だけでなく、夫婦関係や家族の生活にも少しずつ影響が広がっていました。
早めに相談することで、必要に応じて医療につながったり、介護サービスを利用したり、家族への支援を考えたりすることができます。
早めの相談は、必要な医療やサービスにつながるための大切な入り口です。
そして、本人と家族の「幸せな時間」を守ることでもある
ただ、今回の支援を振り返って、もう一つ大切だと感じたことがあります。
それは、
早めに相談することは、本人と家族が幸せに過ごせる時間を、できるだけ長く守ることにもつながるということです。
症状が強くなり、家族関係が悪化してから相談することもできます。
もちろん、その段階からでも支援は始められます。
しかし、もっと早く相談できていれば、本人も家族も、苦しい時間を少し短くできたかもしれません。
一緒に買い物へ行くこと。
何気ない会話をすること。
家で穏やかに過ごすこと。
そんな日常の時間は、特別なものではないように見えて、本人や家族にとって大切な時間です。
必要な支援につなぐことと、本人や家族の幸せな時間を守ること。
私は、この二つは別々のものではないと思っています。
「相談にはお金がかかる」と思われないために
今回、ご家族から、
「お金はいくらくらいかかるんですか?」
と聞かれたことで、私は改めて考えました。
さらに、「相談したらお金がかかるのではないか」と思われていれば、相談へのハードルはもっと高くなります。
だからこそ、
「認知症のことで困ったときには、無料で相談できる場所がある」
「必要であれば、無料で訪問して一緒に考えてくれる仕組みもある」
ということを、もっと伝えていく必要があるのだと思います。
今回のこの家族と本人への支援から、私はそのことを改めて教えてもらいました。
早めの相談は、単に医療や介護サービスにつなぐためだけのものではありません。
必要な支援につながりながら、本人と家族が幸せに過ごせる時間を少しでも長く保っていく。
そのための一歩でもあるのだと思います。
