「サービスにつながる前」を、誰が支えるのか③ ――リンクワーカーの5本柱から考えた「関わる仕事」の分担
要介護認定は出ている。ケアマネジャーも決まった。
それでも、本人がサービスを望まず、なかなか利用につながらない。
その「つながるまでの時間」を、ケアマネジャー一人のシャドーワークにしなくてもよいのではないか。
第1回ではケアマネジャーのシャドーワーク、第2回では認知症伴走型支援事業について考えました。
今回は、スコットランドの「リンクワーカー」と診断後支援の5本柱を手がかりに、この2つをつなげて考えてみます。
サービスが始まる前にも、仕事は始まっている
要介護認定が出て、ケアマネジャーが本人を訪問する。
しかし、
「私は困っていない」
「デイサービスには行かない」
「家には誰も来なくていい」
と言われることがあります。
もちろん、無理にサービスを利用してもらうわけにはいきません。
だからこそ、本人の話を聞く。
何を嫌だと感じているのかを知る。
家族の思いも聞く。
何度か訪問しながら、関係をつくっていく。
サービスはまだ始まっていなくても、「関わる仕事」はすでに始まっています。
ただ、その部分はとても見えにくい。
第1回の記事で考えたのは、まさにこの部分でした。
リンクワーカーの「5本柱」
スコットランドでは、認知症と診断された後の支援にリンクワーカーなどが関わっています。
Alzheimer Scotlandでは、本人の同意のもとで、診断や症状への理解、地域とのつながり、将来について考えることなどを支援しています。
その支援を整理したものが、「診断後支援の5本柱」です。
- ①病気を理解し、症状とうまく付き合うための支援
- ②本人や家族が地域とつながり続けるための支援
- ③当事者同士の出会いや関わりへの支援(ピアサポート)
- ④将来のケアの計画づくり
- ⑤将来の意思決定に向けた支援
この5本柱は、厚生労働省が紹介している資料でも、診断後支援の考え方として取り上げられています。
ここで大切なのは、「どの介護サービスを使うか」だけではなく、本人の暮らしそのものが支援の対象になっているという点です。
病気について理解すること。
地域とのつながりを保つこと。
同じ経験を持つ人とつながること。
これからの暮らしを考えること。
将来のケアについて考えること。
「サービスにつなぐこと」だけではなく、その人の暮らし全体を支える。
そこに、リンクワーカーの大きな役割があるように思います。
「まだつながっていない」は、「何もしていない」ではない
この5本柱を、ケアマネジャーのシャドーワークと重ねて考えてみます。
本人の思いを聞く。
これまでの生活を知る。
家族の気持ちを聞く。
何なら受け入れられそうなのかを探す。
これからの生活について一緒に考える。
ケアマネジャーがサービス利用前に行っていることの中には、5本柱と重なる部分があります。
「まだサービスにつながっていない時間」にも、支援としての意味があります。
「まだデイサービスを利用していない」
「まだ訪問サービスを受け入れてもらえていない」
という結果だけを見ると、何も進んでいないように見えることがあります。
でも、その間にも、関係づくりは進んでいる。
本人のことを知る時間も、次の支援につながる大切な時間なのだと思います。
そこで、認知症伴走型支援事業を重ねてみる
第2回では、認知症伴走型支援事業について考えました。
認知症伴走型支援事業は、認知症対応型グループホームなど地域の既存資源を活用し、本人への生活上の助言や生きがいにつながる支援、家族への継続的な相談・助言などを行う事業です。
厚生労働省の資料では、令和3年度に創設され、令和5年度には全国10か所で実施されていました。
その後も新たに取り組む自治体があり、京都府与謝野町や福岡県直方市などでも実施されています。
リンクワーカーと認知症伴走型支援事業は、もちろん同じ制度ではありません。
それでも、
本人の暮らしを知り、関係を続けながら、必要な支援につないでいく。
この部分には、重なるところがあるように思います。
ケアマネジャーの「1」を「0.5+0.5」にできないか
そこで、こんな役割分担はできないだろうかと考えました。
要介護認定が出て、ケアマネジャーが本人を訪問する。
そして、
「この方は、サービス利用まで少し時間がかかりそうだ」
と感じた段階で、地域の認知症伴走型支援事業所に相談する。
必要であれば、一緒に関わってもらう。
ケアマネジャーが「1」で抱えている“関わる仕事”を、「0.5+0.5」のように分担できないだろうか。
もちろん、本当に仕事を半分ずつにするという意味ではありません。
一人で抱え込まず、役割を分けるという意味です。
伴走型支援事業所では、本人の話を聞きながら、
「どんな暮らしを続けたいのか」
「何を大切にしているのか」
「何なら受け入れられそうなのか」
を一緒に考える。
一方でケアマネジャーは、家族との調整や、本人が希望したときに利用できるサービスについて考えておく。
そうすれば、サービス利用までに時間がかかること自体を、一人のケアマネジャーだけの負担にしなくても済むかもしれません。
なお、これは全国一律に決められた役割分担ではありません。
認知症伴走型支援事業を、地域の中でどう生かせるのかを考えた、私なりの案です。
つながったら、役割を渡していく
関わりを続ける中で、
「それなら行ってみてもいい」
「週に1回くらいなら」
「家に来てもらうのはいい」
という本人の言葉が出てくるかもしれません。
そうなれば、今度はケアマネジャーが中心となって介護サービスを調整していく。
そのとき、伴走型支援事業所から、
「この方は、こういうことを大切にされています」
「こういう関わりなら受け入れてもらえました」
「このようなことには興味を持たれています」
と伝えていく。
ずっと一緒に抱えるのではなく、関わりの中で分かったことを、次の支援へ渡していく。
それも一つの「リンク」なのではないかと思います。
「つながるまで」にも、役割と価値を
第1回では、ケアマネジャーのシャドーワークについて考えました。
第2回では、認知症伴走型支援事業について考えました。
そして今回、リンクワーカーの5本柱を重ねて考えてみました。
そこで見えてきたのは、
サービスにつながる前の時間を、誰かの善意やシャドーワークだけにしない。
ということです。
本人の話を聞くこと。
関係をつくること。
本人が大切にしていることを知ること。
これからの暮らしを一緒に考えること。
それらも支援です。
ケアマネジャー一人が抱えるのではなく、地域にある仕組みと役割を分担する。
そして、本人がサービスにつながったら、そこで得られた本人の思いや関係性を次の支援者へ渡していく。
「サービスにつなぐ」だけではなく、「つながるまでを支える」。
その部分にも、きちんと役割と価値を与えることができれば、ケアマネジャーのシャドーワークを少し違う形に変えていけるのではないか。
3回にわたって考えてきて、今はそんなふうに思っています。
参考文献・出典
- Alzheimer Scotland 「Post Diagnostic Support / 5 Pillars Model」
- 厚生労働省 「Q&Aでわかる 診断後の認知症の人とその家族の支援方法」
- 厚生労働省 「伴走型相談支援マニュアル」
- 厚生労働省 「認知症伴走型支援事業」関連資料
