「サービスにつながる前」を誰が支えるのか②――シャドーワークから考えた認知症伴走型支援事業
前回の記事では、ケアマネジャーさんから聞いた「シャドーワーク」について書きました。
本人は介護サービスを望んでいない。でも、家族は心配している。
「サービスにつながる前の支援」を、ケアマネジャーだけに任せず、仕事として分担できないだろうか。
そんなときにも、ケアマネさんは訪問し、本人や家族の話を聞きながら関係をつくっていくことがあります。
そこで考えたのが、
「サービスにつながる前」を誰が支えるのか。
ということでした。
今回は、その一つのヒントになるかもしれない「認知症伴走型支援事業」について調べてみました。
私がまず注目したのは、本人や家族への継続的な相談支援を「仕事」として行うための費用があることです。
誰かに善意で手伝ってもらうのではありません。
ここに、前回考えたシャドーワークの問題を考えるヒントがあるのではないかと思いました。
「認知症伴走型支援事業」とは?
簡単にいうと、
認知症のある本人や家族と継続してつながり、相談しながら、その人の暮らしを一緒に考えていく取り組みです。
厚生労働省のマニュアルをもとに簡単に整理すると、
- 対象:認知症のある本人や家族
- 担い手:認知症について専門的な知識や経験を持つ介護職など
- すること:継続的な相談や助言、生活上の工夫、社会参加や生きがいにつながる支援
- 連携:地域包括支援センター、認知症地域支援推進員、医療・介護関係者などと連携
- 費用:伴走型支援事業所は、市町村からの委託費によって運営
- 本人・家族の負担:相談にかかる費用は無料
- 記録・報告:相談内容を記録し、活動内容などを市町村や地域包括支援センターへ報告
という仕組みです。
認知症高齢者グループホームなど、認知症ケアの経験を持つ事業所が「伴走型支援拠点」となって実施することが想定されています。
ただし、すべての地域で実施されている事業ではありません。
「サービスにつながる前」も支援する
私がもう一つ大切だと思ったのは、すぐに介護サービスにつなぐことだけを目的としていないことです。
認知症があっても、早い段階からすべての人が介護保険サービスを必要とするわけではありません。
暮らし方を一緒に考える。
本人が好きなことや生きがいを探す。
社会とのつながりを保つ。
家族の不安を聞く。
そして、必要になったときに適切な支援につなぐ。
「サービスを利用していない時期にも、できる支援がある」
ということです。
ここが、前回の記事で考えたことと重なりました。
ケアマネさんの「1」を分担できないだろうか
例えば、要介護認定は出ている。
家族はデイサービスを利用してほしい。
しかし本人は、
「行きたくない」
と言っている。
そんなとき、本人に何度も会い、
どんな生活をしているのか。
これまで、どんな人生を歩んできたのか。
何が好きなのか。
何を大切にしているのか。
これから、どう暮らしたいのか。
そうしたことを知りながら、本人が受け入れられる支援を探していく必要があります。
ただ、これには時間がかかります。
そこで私は、これまでケアマネさん一人が担っていた「関わる仕事」を、伴走型支援を担う人と分担できないだろうかと考えました。
例えば、これまでケアマネさんが「1」として担っていたものを、
ケアマネさん0.5+伴走する人0.5
のように考えてみる。
もちろん、本当に仕事量を半分ずつにするという意味ではありません。
ケアマネさんも本人や家族と関わる。
伴走する人も関わる。
そして、それぞれが知ったことを共有する。
支援を分断するのではなく、「関わる担い手」を分担する。
そんなイメージです。
シャドーワークを、別の人のシャドーワークにしない
ここで重要になるのが、先ほどの「費用」です。
ケアマネさんの負担を減らすために、
「ほかの介護職にも手伝ってもらおう」
だけでは、今度はその人のシャドーワークになってしまうかもしれません。
伴走型支援事業所として特定の施設が市町村から委託を受ければ、本人や家族への関わりを、無償の「見えにくい仕事」ではなく、費用の出る事業として行うことができます。
さらに、相談した内容を記録し、活動内容などを市町村や地域包括支援センターへ報告していきます。
私は、ここにも意味があると思いました。
例えば、
「デイサービスには行きたくないと言っている」
だけではなく、
「昔の仕事の話はよくされる」
「人と話すこと自体は好きそう」
「大人数より少人数の方が合いそう」
そんなことが関わりの中で分かるかもしれません。
その情報を記録し、必要な範囲で支援者同士が共有する。
そうすれば、そこで得られた情報を次の支援に活かすことができます。
これまで見えにくかった「サービスにつながる前の関わり」を、仕事として位置づけ、記録し、次の支援につなげていく。
そんな使い方ができないだろうかと思いました。
ゴールは「サービスを使うこと」ではない
ただし、目的を、
「どうすればデイサービスに行ってもらえるか」
だけにはしたくありません。
本人のことを知った結果、デイサービスが合っているかもしれない。
地域の集まりかもしれない。
好きだったことを続けることかもしれない。
今は何かのサービスを利用せず、相談できる関係を続けることかもしれません。
「サービスにつなぐために本人を知る」のではなく、「本人を知った結果、必要な支援を一緒に考える」。
私は、この順番を大切にしたいと思います。
「誰が支える?」から「どう分担する?」へ
もちろん、認知症伴走型支援事業は、ケアマネさんのシャドーワークを減らすためにつくられた事業ではありません。
今回書いた「分担」は、伴走型支援事業について調べた私が考えた一つの案です。
それでも前回、
「サービスにつながる前」を誰が支えるのか。
と考えていた私にとって、一つのヒントになりました。
ケアマネさんだけが抱えない。
伴走する人だけに任せるのでもない。
それぞれが本人や家族と関わり、そこで知ったことを共有し、その人に合った支援を一緒に考える。
そして、その関わり自体を費用の出る「仕事」としてきちんと位置づける。
「誰が支えるのか」ではなく、
「みんなで、どう分担して支えるのか」。
そんな仕組みができれば、本人の意思を大切にしながら、支援する側の負担も少し軽くできるのではないか。
伴走型支援事業について調べながら、私はそんなことを考えました。
そして、もう一つ気になっているのが、スコットランドの「リンクワーカー」です。
次は、リンクワーカーが認知症のある本人や家族に、どのように関わっているのかを考えてみたいと思います。
詳しく知りたい方へ
今回の記事では、制度の内容をできるだけ簡潔にまとめました。
認知症伴走型支援事業について詳しく知りたい方は、厚生労働省のマニュアルに、事業の考え方や支援の流れ、相談記録、関係機関との連携方法などが詳しくまとめられています。
厚生労働省 「伴走型相談支援マニュアル ~認知症高齢者グループホームで『認知症伴走型支援事業』に取り組むために~」
