受診を拒む認知症の方とどう向き合うか①――私たちが最初にしたのは説得ではなかった
認知症が疑われても、本人が「病院には行かない」「自分は何ともない」と考えていることがあります。
家族からすれば、以前とは明らかに様子が違う。
周囲とのトラブルも増えている。
それでも本人は「病院なんて必要ない」と言う。
何度説明しても、何度説得しても、受診してくれない。
そんな状況に困っている家族は、少なくないと思います。
今回は、私が以前関わった一つの事例をもとに、受診を拒む方とどう関わったのかを書いてみたいと思います。
なお、この事例にはもう一つ、本人の意思や権利という大切な視点があります。
今回はまず、「どうやって受診につながったのか」という家族側の困りごとに焦点を当てます。
本人は「受診なんて必要ない」と思っていた
私が関わったのは、アルツハイマー型認知症のある方でした。
本人には受診する意思がなく、
「自分には病院は必要ない」
と考えていました。
一方で、生活の中では、周囲の方が困ってしまうような行動が見られるようになっていました。
本人には悪気はなかったのだと思います。
むしろ、本人なりには「してあげた方がいい」「自分がやった方がいい」と思っていたのかもしれません。
しかし、その対応を続ける家族はかなり疲れていました。
家族としては、何とか受診につなげたい。
でも、本人は行きたくない。
ここが大きな壁でした。
「病院へ行きましょう」だけでは動かないこともある
そこで私たちは、すぐに「病院へ行きましょう」と説得するのではなく、何度か訪問しながら、その方自身のことを知ることから始めました。
何が好きなのか。
昔、どんなことをしていたのか。
どんなことに興味があるのか。
人生の中で、大切にしてきたものは何なのか。
そして、その人自身が少し誇らしく思っていることは何なのか。
そうした話を重ねていきました。
その中で、その方にとって昔の経験と結びついた、大切な場所があることが分かりました。
そこで、
「久しぶりに見に行きませんか」
「私にも、その場所を見せてください」
と声をかけました。
「病院へ行きましょう」と言われれば断っていた方も、自分にとって大切な場所を見に行くことには応じてくれました。
実際に一緒にその場所を訪れました。
そして帰りに、
「せっかくここまで来たから、病院にも寄っていきましょう」
と声をかけました。
その流れの中で、受診につなげることができました。
受診拒否のとき、説得だけが方法ではない
この経験から感じたのは、本人が受診を拒んでいるとき、「病院へ行くように説得すること」だけが方法ではないということです。
もちろん、今回と同じ方法がすべての方に当てはまるわけではありません。
無理に連れて行けばいいという話でもありません。
大切なのは、
「この人は何を大切にしてきたのだろう」
と考えることだと思います。
好きなこと。
昔の仕事。
趣味。
会いたい人。
思い出の場所。
本人が誇りに感じていること。
そうした、その人にとって意味のあるものの中に、支援につながる入口が見つかることがあります。
家族だけで抱え込まなくていい
もう一つ、伝えたいことがあります。
家族だけで何とかしようとしなくてもいいということです。
本人が受診してくれないと、
「どうやって説得すればいいんだろう」
「何と言えば病院に行ってくれるんだろう」
と、家族だけで考え続けてしまうことがあります。
でも、本人が受診を拒んでいる段階から、地域包括支援センターやかかりつけ医、認知症疾患医療センターなどへ相談することもできます。
「本人が病院へ行ってくれません」
という相談そのものが、支援の始まりになります。
相談や訪問にかかる費用への不安については、別の記事で考えています。
どうやって説得するかだけではなく、
「どうしたら、この人が受け入れられる形で支援につながれるだろう」
と、一緒に考えてもらう。
それだけでも、家族が一人で抱える負担は少し変わると思います。
受診につながった、その先に残ったこと
私が関わったその方も、結果として受診につながりました。
家族からは、
「受診できて本当によかった」
と言っていただきました。
家族にとっては、大きな安心につながったのだと思います。
ただ、この支援には、もう一つ私の中に残っていることがあります。
本人自身は、最初から受診を望んでいたわけではありません。
受診につながったことで、家族は安心しました。
では、本人の立場から見たとき、あの支援はどうだったのか。
受診につながったから、それでよかったと言い切っていいのか。
それについては、次の記事で考えてみたいと思います。
