認知症と暮らし・家族

認知症になったら、どこで暮らすのか②――自宅・施設・病院という選択肢

認知症になったら、どこで暮らすのか②。自宅・施設・病院という選択肢。暮らす場所を背景に話し合う本人と家族。
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現在の認知症施策では、認知症になっても本人が尊厳と希望を持ち、住み慣れた地域で自分らしく暮らしていくことが大切にされています。

これは、いわゆる「新しい認知症観」の大切な考え方です。

認知症になったから、すぐに施設へ。

認知症になったから、すぐに病院へ。

そうではなく、本人の希望を聞きながら、できる限り地域で暮らし続けられるように支えていく。

私も、この考え方はとても大切だと思っています。

ただ、現場では、それだけでは語れないこともあります。

前回の「認知症になったら、どこで暮らすのか①――ライシャワー事件から考える精神科病院と認知症ケア」では、精神科病院と認知症ケアのつながりについて考えました。

「できるだけ自宅で」だけでは支えきれないこともある

BPSD(認知症の行動・心理症状)が強くなると、本人だけでなく、家族の生活も大きく変わることがあります。

夜中に何度も起きる。

「家に帰る」と繰り返す。

外へ出ようとする。

介護を拒否する。

怒鳴ったり、時には家族に手が出たりする。

家族は夜も十分に眠れないまま、翌日は仕事に行かなければならないこともあります。

それが一日、二日ではなく、何週間、何か月と続くこともあります。

「地域で暮らすことが大切だから、自宅で頑張りましょう」

という言葉だけでは、家族をさらに追い詰めてしまうこともあるのではないでしょうか。

本人の尊厳を守ることは大切です。

同じように、支えている家族の生活や健康を守ることも大切だと思います。

自宅・施設・病院、どれか一つが正解ではない

私は、

「自宅が一番幸せ」

「施設に入った方がよい」

「病院にいた方が安心」

と、一つに決めつけることはできないと思っています。

本人が住み慣れた自宅で暮らしたいのであれば、できるだけその思いを支えたい。

一方で、自宅で暮らすことで本人も家族も疲れ切ってしまうのであれば、施設を考えることもあります。

また、BPSDが非常に強く、治療が必要な時には、精神科病院への入院が選択肢になることもあります。

大切なのは、場所の名前だけで決めないことだと思います。

そこで本人は安心して過ごせるのか。

人と関わる機会はあるのか。

身体を動かすことができるのか。

一日の生活リズムは整うのか。

本人が望んでいる暮らしに近づけるのか。

そして、家族は無理なく関わり続けることができるのか。

そうしたことを一緒に考える必要があります。

実際に入院を考える場面で、本人や家族の思いと、病院でできることをすり合わせる大切さは、「「そんな話はきいていない」を防ぐために。入院前面談で感じたこと」に書いています。

病院での生活が合う人もいるかもしれない

精神科病院では、病院や病棟によって違いはありますが、作業療法や運動、レクリエーションなどの時間が設けられているところがあります。

人と話す。

身体を動かす。

何かを作る。

毎日ある程度決まった時間に起き、食事をし、活動する。

そうした環境が、本人の生活リズムを整えたり、身体機能や認知機能への刺激につながったりする可能性もあります。

ただし、

「だから精神科病院で暮らした方が幸せだ」

と言いたいわけではありません。

本人が「家に帰りたい」と思い続けているのであれば、その思いを置き去りにはできません。

病院が合う人もいる。

施設が合う人もいる。

自宅で暮らすことを望む人もいる。

答えは、その人によって違います。

一度決めたら終わりではない

もう一つ大切なのは、一度選んだ場所をずっと選び続けなければならないわけではないということです。

BPSDが強い時期には入院して治療を受ける。

症状が落ち着いたら施設へ移る。

介護サービスを組み合わせて自宅へ戻る。

本人や家族の状況が変われば、また選び直す。

その時々で、選択肢を考え直してよいのだと思います。

私は、これからの認知症医療を考えるうえで大切な言葉の一つが、

「選択肢」

だと思っています。

「地域で暮らす」という理念は大切です。

しかし、それを「家族が限界になるまで自宅で介護すること」と同じ意味にしてはいけないと思います。

本人の生活も守る。

家族の生活も守る。

そのために、自宅、介護サービス、施設、そして必要な時には病院という選択肢を持っておく。

そして、その時々で選び直す。

それが、本人と家族の双方を支えることにつながるのではないでしょうか。

そして、実際に「どこで暮らすか」を考える時、避けて通れないもう一つの問題があります。

それが「お金」です。

病院に入院したら、いくらかかるのか。

施設なら、いくら必要なのか。

年金が少ない場合、使える制度はあるのか。

続きの「認知症になったら、どこで暮らすのか③――上手に聞きたい医療費・介護費と制度」では、難しく感じやすい医療費や介護費の制度について、できるだけ分かりやすく考えています。

プロフィール
しるべ
しるべ
認知症看護認定看護師
認知症看護認定看護師として、認知症疾患医療センターで認知症に関わっています。 これまで急性期病院での勤務経験があり、ケアマネジャー資格、家族の介護経験もあります。 専門職としてだけでなく、家族として悩んだ経験も含め、日々の関わりの中で感じたことや気づいたことを、自分の言葉で綴っています。 正解を押しつけるのではなく、「こんなこともあるよね」と一緒に考えられる場所にしたいと思っています。
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