認知症になったら、どこで暮らすのか③――上手に聞きたい医療費・介護費と制度
「入院すると、いくらかかりますか?」
「施設に入ったら、年金だけで払えるでしょうか?」
認知症の相談では、お金の心配も大きな問題です。
特に、毎月ぎりぎりで生活している人にとっては、月に数千円、数万円の違いが、その後の暮らしに影響することがあります。
ところが、医療や介護のお金の制度は、とても分かりにくいものです。
「高額療養費制度」
「住民税非課税世帯」
「負担限度額認定」
「世帯分離」
こうした言葉が並ぶだけで、
「難しそうだから、もういい」
と思ってしまう人もいるかもしれません。
正直に言えば、私自身も、制度をすべて理解しているわけではありません。
だから私は、制度を全部知ろうとしなくてもよいと思っています。
大切なのは、
「私の場合、どんな選択肢がありますか」と上手に聞くこと
です。
前回の「認知症になったら、どこで暮らすのか②――自宅・施設・病院という選択肢」では、自宅、施設、病院のどれか一つを正解とせず、本人や家族の状況に合わせて選び直すことについて考えました。
医療費や介護費には、負担を軽くする仕組みがある
病院で医療費が高額になった時には、「高額療養費制度」があります。
簡単に言えば、
医療費が高くなりすぎないよう、自己負担に上限を設ける仕組み
です。
その上限は、年齢や所得などによって違います。
一方、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などでも、所得や資産が一定以下の場合、食費や居住費の負担を軽くできる制度があります。
その際、預貯金などを確認することがあります。
「施設に入ると通帳まで見られる」
と聞くことがありますが、すべての人の財産を調べるという意味ではありません。
負担を軽くする制度の対象になるかを確認するため
ということです。
私の肌感覚として思うこと
ここからは、あくまで私自身が現場で感じていることです。
施設で生活する場合と、精神科病院などで入院生活を送る場合を比べた時、条件によっては、本人や家族の実際の負担額が病院の方が少なくなるケースもあるように感じます。
もちろん、
「安いから病院に入院した方がよい」
と言いたいわけではありません。
入院には治療の必要性がありますし、本人がどこで暮らしたいのかも大切です。
ただ、生活がぎりぎりの人にとっては、
「負担が軽くなる方法があるかもしれない」
と知っているだけでも違います。
「お金がないから無理」
と最初から諦める前に、一度確認してみる。
それだけでも、選択肢が増えることがあります。
分からなければ、単語だけメモする
制度を全部覚える必要はありません。
例えば、
- 高額療養費
- 住民税非課税世帯
- 負担限度額認定
- 世帯分離
- 医療費の上限
- 食費・居住費の軽減
こうした言葉だけメモして、市町村の窓口で、
「私が使える制度はありますか」
「負担を軽くできる方法はありますか」
「他に選べる方法はありますか」
と聞いてみる。
これで十分だと思います。
大切なのは、制度を知り尽くすことではありません。
自分に何が使えるのかを、上手に聞くこと。
そこから、今まで見えていなかった選択肢が見つかることがあります。
認知症も、みんな同じではない
「認知症」と一言で言っても、原因や症状、経過は一人ひとり違います。
身体の病気を伴う人もいれば、BPSDが強く精神科での治療が必要になる人もいます。
だから、
「認知症だから、この制度」
と決めつけるのではなく、
「この人の場合、どんな制度が使えますか」
と確認することが大切です。
上手に聞くことが、選べる道を増やす
この3回の記事を通して、私が伝えたかったのは、
選択肢を増やすこと
です。
自宅で暮らす。
介護サービスを使う。
施設に入る。
治療が必要な時には病院に入院する。
そして、利用できる制度を使って、自分や家族の生活を守る。
これも大切な選択肢です。
もちろん、お金だけで暮らす場所を決めるべきではありません。
でも、お金や制度を知らないために、最初から選択肢を失ってしまう必要もありません。
制度を全部覚えるより、
「私の場合、どんな選択肢がありますか」
と上手に聞く。
分からなければ、単語だけメモして持っていく。
それでよいのだと思います。
上手に聞くことが、選べる道を増やす。
そして、選べる道が増えることは、自分や家族の生活を守ることにつながると思います。
※制度や負担額は、年齢、所得、資産、世帯状況、加入している医療保険などによって異なり、変更されることもあります。実際に利用する際は、お住まいの市町村や加入している医療保険者などにご確認ください。
このテーマを最初から読む方は、「認知症になったら、どこで暮らすのか①――ライシャワー事件から考える精神科病院と認知症ケア」からご覧いただけます。
