日々の気づき

「もう変わらないから」で終わらせて良いだろうか

srnote26

認知症の方に対して、冷たく接する。

せかす。

ときには、強い口調で怒る。

そんな看護師の関わり方について、認知症看護認定看護師の仲間と話す機会がありました。

認知症のある人への関わりが変わらないとき、職員本人だけを変えようとする必要はありません。職員同士のフォローや管理職を含む仕組みを整え、今いる患者さんとこれからの看護の両方を守ることができます。

その中で、ある方がこんなことを言いました。

「そこに力を注ぎ続けるより、新人のうちから、そういう対応をしないように教育していく方がいいんじゃないか」

なるほど。

たしかに、その考え方にも一理あると思いました。

40代、50代、60代と経験を重ねてくると、その人なりの看護観や価値観、仕事のやり方が固まっていることがあります。

そこを変えていくのは、簡単ではありません。

何度伝えても変わらない。

研修をしても、そのときだけ。

そんな経験をすると、

「もう、この人を変えようとするより、次の世代に力を注いだ方がいい」

と思う気持ちも分かります。

私自身、その話を聞きながら、

「たしかに、そうかもしれない」

と思いました。

でも同時に、少し引っかかるものもありました。


「変わらない人だから」で終わらせていいのだろうか

その看護師が変わりにくいとしても、

今、目の前にいる認知症の方はどうなるのでしょう。

せかされている。

強い口調で言われている。

理解できないまま行動を求められている。

不安になっている。

もし、

「この看護師はもう変わらないから」

と私たちが諦めたら、その負担を受け続けるのは患者さんです。

そこを考えると、

やはり「仕方ない」で終わらせるのは違う気がします。

人を変えることは難しい。

でも、患者さんにできるだけ負担がかからないように、環境や関わり方を整えることはできないだろうか。

そんなことを考えました。


本人を変えることだけが方法ではない

「その看護師の考え方を変えなければならない」

と考えると、とても難しく感じます。

でも、必ずしも本人の価値観そのものを変える必要はないのかもしれません。

例えば、

その方が苦手とする場面では、別の職員が少しフォローする。

本人がなぜその対応になっているのかを一緒に振り返る。

「怒らないでください」と注意するのではなく、

「この方は、急かされると余計に不安が強くなるようです」

と患者さんの反応を具体的に伝える。

患者さんの生活歴や大切にしてきたことを、チームで共有する。

そうやって、

「あなたの看護は間違っている」

と正面から否定するのではなく、

「この人にとって、どうすれば少し楽になるだろう」

という方向に話を持っていく。

それなら、少し変化が生まれることもあるのではないかと思います。


個人への働きかけだけで限界があるなら

それでも、個人への声かけだけでは限界があります。

何度伝えても変わらない。

患者さんへの影響が続いている。

そういう場合は、病棟師長や看護部長などの管理職を巻き込んでいく必要があるのだと思います。

個人対個人で注意を続けるだけでは、

「考え方の違い」

「相性の問題」

で終わってしまうことがあります。

でも、認知症の方への関わりによって不安や混乱が強くなっているのであれば、それは一人の看護師だけの問題ではなく、病棟全体の看護の質に関わる問題です。

私は、身体拘束をできるだけ減らしていく取り組みとも、どこか似ているように感じます。

身体拘束も、誰か一人の努力だけで減らしていくことは難しい。

現場のスタッフだけで抱えるのではなく、管理職も含めて、組織として考えていく必要があります。

認知症の方への関わりも同じではないでしょうか。

「この人は変わらないから仕方ない」

で終わらせるのではなく、

どうすれば患者さんへの負担を減らせるのか。

どうすれば病棟全体でよりよい関わりができるのか。

必要であれば、師長や看護部長にも相談し、組織として考えてもらう。

認定看護師として、一人でできることには限界があります。

だからこそ、必要なところまでつないでいくことも、自分の役割の一つなのだと思います。

それが、現実的な一つの「落とし所」なのかもしれません。

その思いを組織の中で実際の形にすることについては、「良い支援者って、どんな人なんだろう」でも考えています。


それでも、新人教育はとても大切

一方で、新人教育に力を入れるという意見にも、私はかなり共感します。

まだ看護の形が固まっていない時期に、

認知症の方を「言うことを聞いてくれない人」として見るのか、

それとも、

「この人には、この人なりの理由がある」

と考えるのか。

この違いは、その後の看護に大きく影響すると思います。

認知症看護というと、

症状への対応方法や、困ったときの声かけを教えることに目が向きがちです。

でも、それだけでは足りません。

その人がどんな人生を歩んできたのか。

どんな仕事をしてきたのか。

何を大切にしてきたのか。

どんな趣味があったのか。

家族とどんな暮らしをしてきたのか。

そうしたことを知り、看護や介護に活かす。

それが、その人を一人の人として見ることにつながるのだと思います。

方法だけでなく、「誰のためにするのか」まで一緒に考えることについては、「偽薬を渡すことに、少し引っかかった」でも、新人教育と重ねて書いています。


ベテランへの働きかけと新人教育は、別々ではない

考えてみれば、

ベテラン看護師への働きかけと、新人教育は、どちらか一つを選ぶものではないのかもしれません。

今いる患者さんを守るためには、今のスタッフへの働きかけが必要です。

そして、同じことを次の世代に繰り返さないためには、新人教育が必要です。

どちらも必要なのだと思います。

しかも、新人は先輩の姿をよく見ています。

研修で、

「認知症の方を尊重しましょう」

と教えても、

現場で先輩が怒鳴ったり、せかしたりしていれば、

新人はそちらを「この病棟のやり方」として覚えてしまうかもしれません。

そう考えると、ベテランへの働きかけも、実は新人教育の一部なのだと思います。

経験を重ねたあとも、自分自身の支援を振り返り、学び続けることについては、「資格は一度取ればそれでいいのか――ケアマネジャーの更新制度廃止から考えたこと」でも考えています。


難しい。でも、諦めたくはない

人を変えることは難しい。

長年の価値観や仕事のやり方を変えることは、もっと難しい。

だから、

「変わらない人に時間をかけるより、新人を育てた方がいい」

という考え方にも納得できます。

でも、

今入院している認知症の方のことを考えると、

「もう変わらないから」

と諦めるのも、やはり違う気がします。

本人を責めることでもない。

患者さんに我慢してもらうことでもない。

では、どうすればいいのか。

正直、簡単な答えはありません。

それでも、

目の前の患者さんが少しでも安心して過ごせるように。

そして、これから看護を始める人たちが、

認知症のある人を「困った人」ではなく、

人生を歩んできた一人の人として見られるように。

今いる患者さんを守ること。これからの看護を育てること。その両方を考え続けることが、認知症看護に関わる自分の役割なのかもしれない。

そんなことを考えました。

プロフィール
しるべ
しるべ
認知症看護認定看護師
認知症看護認定看護師として、認知症疾患医療センターで認知症に関わっています。 これまで急性期病院での勤務経験があり、ケアマネジャー資格、家族の介護経験もあります。 専門職としてだけでなく、家族として悩んだ経験も含め、日々の関わりの中で感じたことや気づいたことを、自分の言葉で綴っています。 正解を押しつけるのではなく、「こんなこともあるよね」と一緒に考えられる場所にしたいと思っています。
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